大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

青森地方裁判所弘前支部 昭和38年(ワ)166号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔事実〕本件は、被告の係員が原告名義でなされた改印鑑届および印鑑証明書交付申請が訴外者の偽造にかかるものであることを看過して訴外者に該印鑑証明書を発給した結果、原告所有の不動産が他に処分されたとして、これによる損害賠償を請求した事案である。

判決は被告の消滅時効の抗弁を容れて請求を棄却したが、右抽出部分は、その傍論である。

〔判決理由〕<証拠>並びに弁論の全趣旨を総合すれば、原告主張の請求原因第一、二項の事実(ただし、正確な民事訴訟提起の日時、訴外人等の占有日時、損害額の点は明らかではない)のとおり原告はその所有にかかる別紙目録記載の物件につき、訴外盛永義夫のために同人が訴外斎藤昭朗をしてその主張の日時被告に対してなした偽造改印鑑届、同印鑑証明書交付申請により交付を受けた印鑑証明書を使用して登記名義を勝手に変更され、以来転々と他に売買され不法に占有使用されて損害を蒙つていること、および訴外斎藤昭朗が右改印鑑届などをなすについては、原告本人の名を詐称してしたものであるが(イ)当時斎藤昭朗は満二九才、原告は満四一才であつて年令的に大きな開きがあり肉体的に差異があること、(ロ)生年月日を一〇日誤つていたこと、(ハ)原告がそれまでに提出した印鑑届などと筆跡が異るなどのことが認められる。そして右(ロ)、(ハ)の事実は証人工藤金作、同野藤京子の各証言により認められる生年月日を多少誤記することは時々あること、印鑑届、改印鑑届などは代理人などによつてもなされることもあるのでその筆跡が異つていることもままあることなどの事実に照して考察すれば、当時本件の事務を取扱つた被告吏員においてさほど気にとどめなかつたとしても過失があつたとは言えないし、又、本人を二人並べて詳細に観察すればかなり差異が認められる(イ)の事実も、証人工藤金作、同野藤京子、同斎藤昭朗の各証言を総合して認められる、被告において一日に取扱う印鑑に関する事務は一日平均一五〇件の多きにのぼるが、それがために訪れる人も千差万別で年令に比べて比較的若く見える人、或は年寄つて見える人もあるが、それでも、係員において本人ですかと確めて本人ですと答える場合、これを本人として取扱つてそれまで間違いがなかつたこと、本件についてもその取扱によつたことなどの事実に照して考察すれば、右差異を重視して特に本人であることを確認する特別の方法を採らなかつたとしても、必ずしも被告の過失だつたとは言い切れないものが残り、結局本件の全証拠によつても被告の過失を認めるに十分でないと言わなければならない。(三宅純一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!